2-chōme-24-2 Nishiazabu, Minato-Ku, Tokyo 106 - 0031

KARIMOKU RESEARCH CENTER

〒106-0031 東京都港区西麻布 2丁目 24-2

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KARIMOKU RESEARCH CENTER

音楽家・ 森山公稀が探求する「存在しない存在感」:カリモク家具との協働から生まれた空間に溶け込む音響体験
音楽家・ 森山公稀が探求する「存在しない存在感」:カリモク家具との協働から生まれた空間に溶け込む音響体験
KARIMOKU RESEARCH

日本の音楽シーンで多岐にわたる活動を展開する作曲家/ミュージシャンの森山公稀氏が、カリモク家具の新たな試み「KARIMOKU RESEARCH CENTER」の館内音楽を手がけた。家具製造の現場である工場や、木材を育む森で採集された音を素材に、空間に溶け込むアンビエントミュージックを制作。さらに、2025年6月8日には同センター地下1階でアンビエントミュージックコンサート「アンビエント森山 vol.5」を開催し、来場者を音と空間が織りなす独特の世界へと誘った。

本記事では、スリーピースバンド「odol」のメンバーとして、またソロの音楽家としても活躍する森山氏にインタビュー。カリモク家具との出会いから、音の採集で得られた発見、それらを楽曲へと昇華させるプロセス、アンビエントミュージックと家具の深遠な関係性、そしてKARIMOKU RESEARCH CENTERでのコンサートを経て得た新たな気づきまで、その創作の軌跡を紐解く。

< Writing by Ryoh Hasegawa>

森山さんが選曲を担当した、KARIMOKU RESEARCH CENTER 地下1階・THE STUDYで開催した展示 濱田英明 「時間の面影 - resemblance of time -」展の様子|Photo by Hideaki Hamada

森山公稀の音楽活動とカリモク家具との出会い

森山公稀氏は、2014年から活動するロックバンド「odol」のピアノ&シンセサイザーを担当する傍ら、ソロの音楽家としても幅広く活躍している。映画や舞台の劇伴、CM音楽制作、他アーティストのプロデュースなど多岐にわたる活動に加え、自身のソロライブイベント「アンビエント森山」を不定期に開催し、独自の音楽世界を追求している。

今回のカリモク家具とのコラボレーションは、KARIMOKU RESEARCH CENTERのクリエイティブディレクターであるBrad Holdgrafer氏との縁から始まったという。


「BradさんからKARIMOKU RESEARCH CENTERの館内音楽がこの空間の最後のピースとして足りていないというお話を伺い、オリジナルの音楽、音があるといいのではないかという話をしている中で実現しました」(森山)

森山氏にとってカリモク家具は、幼い頃から生活の中に当たり前のように存在していた馴染み深いブランドだった。

「カリモク家具自体には昔から馴染みがありました。生まれた家のダイニングのテーブルや椅子もカリモク家具でした。大学進学で上京するまでは毎日カリモク家具の机と椅子でご飯を食べていました」(森山)

カリモク家具と長年の付き合いがある一方、KARIMOKU RESEARCH CENTERの存在や、Karimoku Case、Karimoku New Standardといった新しいブランドの活動については、今回の話をもらうまで知らなかったという。しかし、実際にRESEARCH CENTERを訪れてその印象は大きく変わった。


「カリモク家具に対する私の以前のイメージは、日本を代表する伝統的な家具メーカーというものでした。良い意味で『無色』というか、特定のイメージがありませんでした。しかし、KARIMOKU RESEARCH CENTERを訪れてそのイメージは180度変わりました。KARIMOKU RESEARCH CENTERは非常に先進的で洗練されており、新しいことに挑戦するイノベーティブな姿勢を感じました。効率性や生産性だけを追求するのではなく、何でもない空間にこそ意義を見出すという、深い意識を持った企業であることに驚きました」(森山)

Brad Holdgrafer氏からのオファーを受けた際の第一印象は、「責任重大でありながらも、めちゃくちゃ面白そうだ」というワクワク感だったと語る。

カリモク家具の工場や木材を仕入れている森で、フィールドレコーディングを行なっている様子

秒単位の工場と数十年単位の森:二つの時間軸から生まれる音の風景

館内音楽の制作にあたり、森山氏はブラッド氏の提案でカリモク家具の工場と、木材を仕入れている森を訪れ、フィールドレコーディングを行った。これは森山氏がライフワークとして行っている活動であり、今回のプロジェクトにおいても重要なインスピレーション源となった。


「フィールドレコーディングは、その場にしかない音を記録するものであり、写真と同様に一度きりの体験です。だからこそ、カリモク家具の工場や森でのフィールドレコーディングも非常に楽しみにしており、素晴らしい経験をさせていただいたと感じています」(森山)

3日間の滞在のうち、初日は工場、残りの2日間は森で過ごした。工場での体験は、森山氏にとって初めての稼働中の工場訪問であり、そのスケールと精密さに驚きを隠せなかった。

「実際に訪れるまでの工場のイメージは、大部分が機械化され、効率的にライン作業が進む画一的なものでした。しかし、カリモク家具の工場は、家具を製造していることもあり、機械による生産と同時に職人さんの手仕事が非常に多く見られました。機械と職人さんの手仕事が非常に自然に融合していて、その一体感に驚きました」(森山)

特に印象的だったのは、各工程のスピード感と、最終検品で流れてくる製品の多様性だという。工場では1秒単位で工程が管理され、働く人々も機械のように正確に動いていたと森山氏は語る。しかし、それだけではない。

「木材の研磨や塗装といった工程では、職人さんが非常に注意深く作業されていました。やはり木材は『生き物』と言えるほど個体差があり、節の位置や虫食いの有無など、一つ一つの違いを素早く正確に見極めながら作業をしていることに感銘を受けました」と、職人の繊細な手仕事にも触れた。

そして最も驚いたのは、最終検品で次々に流れてくる家具が、一個ごとに全く異なるものだったことだという。椅子、ベンチ、そして様々な製品が入れ替わり立ち替わり現れる光景は、いわゆる大量生産のイメージとは全く違うものだと感じたそうだ。

森での体験では、林業に携わる人々や製材所で働く人々と直接話す機会を得た。そこで知ったのは、木材が製品になるまでの途方もない時間軸だ。「杉や檜といった代表的な木材が、40年、60年という長い時間をかけて材木として利用できるようになる」という事実は、森の恵みが未来へと続く持続的な営みによって成り立っていることを示していた。

工場が1秒単位で製品を生み出すのに対し、森では数十年先の未来を見据えて木が育てられる。

「工場での1秒単位で進むスピーディーな時間感覚と、森で長い時間をかけて素材を育むこと。一見すると相反するこの2つの時間軸を両立しているからこそ、この産業は成り立っているのだと実感しました」(森山)

こうした対照的な時間軸の繋がりを深く感じたという。また、森で働く人々の木材を無駄なく活用しようとする姿勢にも感銘を受けた。異なる視点と長い時間軸で物事を捉え、人と人とのコミュニケーションでその流れを生み出していることに、大きな感動を覚えたと語る。

アンビエントのルーツとカリモク家具との共鳴

館内音楽を制作する前にKARIMOKU RESEARCH CENTERでライブをする機会があり、その際に収録した音を試してみたところ、空間に自然と馴染み、スタッフからも非常に良い反応を得られたという。森山氏は、「森や工場の音が東京のど真ん中にあるKARIMOKU RESEARCH CENTERの中で鳴っていることに違和感がなく、むしろ空間にとても似合っているなと感じました。その経験も踏まえ、工場の音や森の音が明確にわかる形で楽曲に混ぜていきました」と語る。

工場で収録した音は想像以上に活気があり、そのままでは空間で浮いてしまうため、馴染むよう調整を重ねた。森山氏は、工場内で聞く音と、静かなKARIMOKU RESEARCH CENTERで聞く音との間に生じる違和感をなくすため、音の主張を和らげる工夫を施したという。具体的には、耳に刺さる高い音の成分を抑え、音が遠くから聞こえるような処理を施した。

楽曲の構成としては、3日間の工場と森での経験から感じた「森から工場、そして家庭へと至る家具製造の一連の流れ」をヒントにした。

森山氏は、空間に配置される音楽の理想的なあり方の一つは「気づかれないこと」だと語る。「音楽が鳴っていることに耳や意識が引っ張られるのではなく、空間に入った体験全体として印象に残ることが理想」と、その哲学を説明する。

この考え方は、家具の存在感と非常に似ているという。「家具が空間に似合っていれば、元からそこにあったかのように感じる」ように、音楽もまた、空間の一部として自然に溶け込んでいる状態が理想だという。まるで長年その家にある家具のように、意識されることなくそこに存在し続ける音楽こそが、森山氏が目指す「存在感」なのだ。

アンビエントミュージックの歴史は浅く、約50年前の1970年代後半にブライアン・イーノがその概念を打ち出したことに始まる。しかし、その源流を辿ると、今から約100年前の1920年代にフランスの作曲家エリック・サティが提唱した「家具の音楽(Musique d'ameublement)」に行き着くという。

森山氏は、それまでの音楽が演奏会などで意識的に聴かれることを前提としていたのに対し、サティは「意識的に聞かれない、日常生活に溶け込む音楽があってもいいのではないか」というコンセプトを打ち出し、その存在感を「家具」になぞらえたと説明する。「音楽は聴くもの」という当時の常識に逆行した試みであり、サティの時代には聴衆がその意図を理解しきれず、演奏が始まると会話をやめて聴き入ってしまったという。しかし、その50年後にイーノが提示した「アンビエントミュージック」という名前とともに、現在ではその概念は当たり前のように浸透している。

森山氏は、「家具という存在は、その成り立ちからも分かるように背景音楽や環境音楽を語る上でメタファーとして用いられやすく、私自身もアンビエントミュージックを手がける上で、家具の存在感をたびたび意識しています」と語る。この歴史的背景を知ることで、カリモク家具という場所でアンビエントミュージックを制作することが、いかにコンセプチュアルで責任重大な仕事であるかを改めて認識したという。

森山さんが制作した館内音楽は、2F・THE MATERIALS LABを中心とした場所で使用されている ※館内の展示状況によって、音楽の使用場所に変更が発生する可能性がございます Photography by Tomooki Kengaku

創造性を育む「余白」の価値:KARIMOKU RESEARCH CENTERが示す新たな空間の可能性

「アンビエント森山」というソロライブ活動は、森山氏がアンビエントミュージックが好きだったこと、そして「半分遊びで」「実験的に」始めたものだ。

アンビエントミュージックが「意識的に聴かれない音楽」を目指しているのに対し、コンサートは聴衆が集まって演奏を聴くという、ある意味で矛盾をはらんだ行為だと森山氏は語る。しかし、その矛盾を追求する中で、観客それぞれが自分の時間を過ごしながらも空間を共有するという、新しい感覚のライブ体験が生まれた。森山氏はその体験について、「演劇や映画を見ている状態に近い」と表現し、「矛盾しているからこそ、むしろその時間はすごく愛せるものでした。ただ実際に来てくださった皆さんの反応を受けてそれをあえてコンセプトとして打ち出したり説明する必要性も感じなかったので、しばらくは矛盾を抱えながらただそれを続けてみよう」と、そのユニークな体験を追求し続けた結果、今回のKARIMOKU RESEARCH CENTERでの開催へと繋がった。

KARIMOKU RESEARCH CENTERでのコンサート「アンビエント森山 vol.5」は、森山氏にとって「理想形の一つ」と言えるほど素晴らしい体験だった。普段音楽イベントを行わない場所でありながら、空間自体が持つ心地よさや、内面にフォーカスさせる力が、自身の目指す音楽と見事に合致したという。来場者のリアクションも様々で、目を瞑って聴き入る人、見上げる人など、通常の音楽ライブとは異なる過ごし方をしているという。森山氏は、自身もその「何なのか」を探るために続けている部分もあるとしながらも、終演後に「いい時間だった」という感覚が残り、来場者からも同様の感想が伝えられることに喜びを感じている。

今回のカリモク家具との仕事を通じて、森山氏は多くの気づきと学びを得た。特に印象的だったのは、KARIMOKU RESEARCH CENTERのような「特定の目的や機能があまり強くない場所」の価値だ。「なんとなく立ち寄ってみて、そこで何かが生まれるかもしれないっていうような場所」が意識的に作られ、実際にそうなっていることに強く感銘を受けたという。

実際に、コンサートの日に使用したステージも、カリモク家具のスタッフとの雑談から「こういうの作ったらいいんじゃないか」というアイデアが生まれ、すぐに「やりましょう」という話に発展し、コンサートのために制作されたという。森山氏は、「1秒単位で管理しながら動いている工場のラインの中に、そういったイレギュラーなものも臨機応変に対応するっていうのは大変なことだと思う。そういうことが実際にできる環境にあるっていうのはすごいことだな」と、カリモク家具の持つ柔軟性と実行力に驚きを隠せない様子だった。

今後の活動については、多岐にわたる活動全てに力を入れたいとしつつも、「よくわかんないけど楽しくやってる」という、遊びのような、ゆとりのある仕事を増やしていきたいと語る。

「淡々と、依頼されて作るのではなく、実際にリサーチということで工場や森に訪れ、スタッフの皆さんと深くコミュニケーションを取らせてもらう機会に恵まれた」(森山)

森山氏は今回のプロジェクトのように、自身の知的好奇心を満たし、受動的な仕事ではない、ワクワクできる時間が今後も増えていくことを願っている。