2-chōme-24-2 Nishiazabu, Minato-Ku, Tokyo 106 - 0031

KARIMOKU RESEARCH CENTER

〒106-0031 東京都港区西麻布 2丁目 24-2

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Survey 03 : FORM FOLLOWS FEELINGS|Devon Turnbull(OJAS Tokyo)による“Survey(=調査)”の軌跡[後編]
Survey 03 : FORM FOLLOWS FEELINGS|Devon Turnbull(OJAS Tokyo)による“Survey(=調査)”の軌跡[後編]
KARIMOKU RESEARCH

カリモク家具が2024年10月に始動した新プロジェクト「KARIMOKU RESEARCH(カリモクリサーチ)」。プロジェクトの核となる『Survey』では、テーマ毎に国内外のクリエイターやデザイナー、アーティスト、企業等と連携して“Survey(=調査)”を行い、そこから得られた洞察をもとに、家具に留まらない新しいソリューションの展示・開発を行っています。

第4回目となる『Survey』のテーマは『FORM FOLLOWS FEELINGS』。「機能とは何か?それは私たちをどう感じさせるのか?」という問いを掲げる今回のSurveyには、ニューヨークを拠点に活動するオーディオデザイナーのDevon Turnbull(デヴォン・ターンブル)氏がリサーチャーとして参加しました。デヴォン氏は、自身のブランド〈OJAS(オジャス)〉を通じて、高忠実度なスピーカーシステムやリスニングルームの構築を行い、音、空間、存在感が交差するイマーシブな体験を世界各地で創出しています。

デザインにおいて「機能」は長らく有用性によって定義されてきましたが、デヴォン氏が追求するのは、音楽の自然で感情的な本質を表現し、使う人の心を深く揺さぶる「形」の在り方です。2026年2月21日から6月5日までKARIMOKU RESEARCH CENTERで開催する展示『間の音― Between Space & Sound ―』By OJAS Tokyo and Karimoku Furnitureに向けて、両者はどのような対話を重ねてきたのか。KARIMOKU RESEARCH クリエイティブディレクターのBrad Holdgraferが、デヴォン氏にインタビューを行いました。

後編となる本記事では、カリモク家具の製造現場である愛知の工場で起きた技術的挑戦の舞台裏に迫ります。3次元加工による木製ホーンの実現や、「〈Sanjo〉」「〈Rokujo〉」「〈Nurikabe〉」と名付けられたスピーカーの開発秘話、および日本の美学を音響的に再解釈した家具コレクションの誕生ストーリーをお届けします。

< interview by Brad Holdgrafer, writing by Ryoh Hasegawa, Translation by James Koetting

工芸と音響が交差する、木製ホーンへの挑戦

愛知県にあるカリモク家具の工場を訪れたデヴォン氏は、その圧倒的な製造設備と精度に確信を得る一方で、なかでも本プロジェクトを象徴する成果となったのが、通常はアルミで鋳造される大型ホーンを、カリモク家具の3次元加工技術によって完全に木製で再現したことです。

「カリモク家具の製造能力や精度は、スピーカーキャビネットを作るのに十分すぎるほどでした。工場にある膨大なリソースを目の当たりにして、『ここで作れないものなどない』と感じたほどです。特に、私が普段アルミで鋳造しているマルチセルラー・ホーンのデータを渡し、『これを木で作れるか』と尋ねた際、次回の訪問ですでに完璧なプロトタイプが出来上がっていたのには驚きました」(Devon)

木製ホーンは、金属製に比べてまろやかで温かみのある音色を持つ一方で、湿度による変形や割れが生じやすいため、極めて高度な木工技術を必要とします。デヴォン氏が描く緻密な音響設計図を、カリモク家具の職人たちは素材への深い理解と熟練の技で具現化しました。デヴォン氏は、自らの理想が日本の伝統的な「工芸」と結びついた瞬間の感動をこう語ります。

「木製のホーンには日本に熱狂的なファンが存在しますが、その製作は非常にデリケートです。カリモク家具とのプロジェクトは、その繊細なプロダクトを最高の技術で製作し、設置できる完璧な機会でした。ただの板やワイヤーという基本的な材料が、美しい音を奏でる機能を持った瞬間の魔法は、何度経験しても素晴らしいものです」(Devon)

静寂のなかで音と対峙する「サウンドハウス」

今回のプロジェクトのもう一つの大きな柱が、茶室を建築的なプロトタイプとした移動式のリスニングルーム「サウンドハウス」の構築です。デヴォン氏は、ギャラリー展示における音響コントロールの難しさを解決する手段として、自律した完璧な音響空間を創り出すことを長年の目標としてきました。

「茶室は多くの意味で日本美学の真髄であり、訪れるたびに『自分ならこれをどう解釈するか』を考えていました。本来、茶室は沈黙を守るべき場所ですから、そこで音楽を流すのはある種『不敬』な概念かもしれません。しかし、カリモク家具という象徴的な日本のメーカーと組むことで、外部の人間として敬意を払いながら、伝統に対して自分なりの対話を試みる本物の機会を得られたのです」(Devon)

装飾を削ぎ落とした、一つの巨大な木の塊のような静かな佇まいを見せるその空間は、カリモク家具の精緻な木工技術によって実現しました。一歩中へ入れば外部の喧騒から完全に切り離された純度の高い音響体験が待っています。オープン初日のティーセレモニーでは、茶道の作法とデヴォン氏の音響哲学が共鳴し、伝統の枠を超えた新しい「間」の在り方が提示されました。

「私はオーディオの世界でもデザインの世界でもアウトサイダーですから、時に『ルールを知らなかった』という無知の特権を利用して、新しい空間を見つけ出すことができます。茶室という象徴的な文化装置を、リスニングのためのモバイルな小建築へと再解釈することは、私にとって非常にエキサイティングな挑戦でした」(Devon)

日本の住環境に寄り添う「Sanjo」「Rokujo」「Nurikabe」

デヴォン氏が今回のSurveyを通じて追求したのは、日本の住宅サイズに調和する、かつてないほど親密な音響体験でした。東京に自身の拠点を持ったことで、西洋とは異なる日本の「静寂」の深さを肌で感じた彼は、その空間に最適なスピーカーとして「Sanjo」「Rokujo」、そして「Nurikabe」というシリーズを考案しました。

「日本は私が訪れたどこよりも静かな場所です。背景が暗いほど色が鮮やかに見えるように、深いレベルの静寂はリスニング体験を劇的に変えます。私の家は日本の基準でも小さな家ですが、そこに合うドライバーを開発した際、偶然にも『三畳』『六畳』という日本の空間単位と結びつきました。日本人ならそのサイズ感を直感的に理解してくれるはずです」(Devon)

キャビネットはカリモク家具が製作し、ドライバーには日本の伝説的なメーカーであるフォステクス(Fostex)のアルニコ磁石を採用。さらに、音響的な必要性から大きく設計されたモデルには、親しみを込めて「Nurikabe」という名を与えました。道を遮る壁でありながら、どこか遊び心のある妖怪の名を冠したこのスピーカーには、音そのものを「愛でるべき対象」として捉えるデヴォン氏の視点が反映されています。

「『Nurikabe』という名前は、最初に見せた日本の友人たちが名付けてくれた一種の内輪ネタでしたが、そのフォルムにぴったりだと思いました。壁のように突然現れるけれど、決して邪悪なものではない。このスピーカーが、静かな部屋の中で彫刻作品のような存在感を放ち、人々に新しい音の風景を見せてくれることを期待しています」(Devon)

感情を形にする、音響と家具が融合した新しい居場所

デヴォン氏の「Survey(=調査)」はスピーカーだけに留まらず、椅子や衝立といった家具の領域にまで及びました。彼は自分自身をプロダクトデザイナーではないと謙遜しますが、その根底には「究極のリスニング体験を創り出すために必要な要素はすべて自分たちの手で設えたい」という強い意志がありました。今回発表された椅子は、彼が愛用するポール・ケアホルムのPK31へのオマージュでありつつ、スピーカーの造形を解体・再構築するというユニークなプロセスで誕生しました。

「椅子をデザインすることは長年の夢でしたが、それは最も困難な挑戦でもありました。私は、自分が最も快適だと感じるPK31の座面の高さや角度をリファレンスにしつつ、スピーカーキャビネットのフォルムを解体し、椅子の形に組み直しました。カリモク家具の工場で、合板がエルゴノミクス(人間工学)の正解に辿り着くまで何度も削り出されるのを見て、これなら自信を持って実験的なアプローチができると確信したのです」(Devon)

また、障子から着想を得たルームディバイダー(衝立)には、視覚的な仕切りとしてだけでなく、内部に吸音材を仕込むことで音響的な機能を付加しました。一般的に無機質でインテリアに馴染まないと思われがちな吸音パネルを、日本の美学を用いて美しく昇華させること。それは、デヴォン氏が長年温めてきたアイデアの結実でした。

「吸音パネルは往々にしてお世辞にもかっこいいとは言えないものになりがちで、多くの人が音響調整を諦めてしまいます。私は日本の伝統的な『衝立』に吸音という機能を持たせることで、それを美しくしたいと願っていました。会場でこれを見た人々が、単なる仕切りではなく音を整える機能があることに気づく『アハ体験』を目撃するのは、私にとっても非常に楽しい経験でした」(Devon)

デヴォン氏とカリモク家具による今回のSurveyは、家具と音響、そして日本の美学と現代のデザインが、領域を越えて共鳴する一つの記録となっています。

3次元加工技術によって実現した木製の大型ホーンや、スピーカーの内部構造を椅子のフォルムへと展開した独創的な造形など、今回のコレクションの至る所に、デヴォン氏による思慮深い仕掛けが施されています。

デヴォン氏が提示した新しい視点と、カリモク家具が培ってきた真摯なものづくりの姿勢が結びついた今回の試み。そこで生まれたプロダクトが多くの人々に評価され、製造の現場に新しい刺激をもたらしていることは、プロジェクトにとっても大きな収穫になるはずです。